つぶやいたり、描いたり。波に攫われる前の、ほんの一瞬。
読み終わって、何とも言えないもやもやとした気分になった一冊。感想を書くのが難しいなあ・・・。



舞台は2.26事件前夜のきなくさい日本。西の丸公爵家(政治的に、非常に重要かつ微妙な立場にあるらしい)の娘氷見子(父西の丸秀彦の元へやってくる政治家と、父との会談を、秘密のメモにとっている)を主人公に、氷見子の兄義人、氷見子を「お姉さま」と慕う猛田節子(陸軍大臣の娘で、成り上がり貴族と軽蔑されている)、父秀彦、その他さまざまな男女の思惑が交錯する。

始めは氷見子たち貴族のお嬢さまたちが、「軍人なんてやーねー、男くさくって、無骨で」なんて馬鹿にしてるような気楽なやり取りもあるのだけど、それが物語を読み進めるにつれ、どんどん彼女たちの周辺にも政治的暗雲がたちこめていく(それとともに、ドロドロした人間関係も明らかになっていくの・・・うう)。そして、ついに事件は起こってしまい・・・



と、ストーリーはこんな感じ。2.26事件、僅かに残った受験的知識だけではちょっと理解が苦しかったかも・・・とはいえ、物語を読むのにそれを知ってなきゃどうしようもないことはないと思う。

に、人間関係がものすごい、ディープ。昼のドラマにありそうだなあ、こういうの・・・と思ってしまった(汗)。節子の氷見子への愛情を見てると、ああ、こういう題材でも、書き手によってこうも肉感的というか、センシュアルになるものか・・・と思わずにはいられない。やや疲れる。



けれど、人物をひとり一人じっくり見ていくと、それぞれに自分のジェンダー(?)に思うところありの人ばかりで、その考え方の違いが面白い。特に、貴族として生まれてしまったがために、青年軍人たちから反感を持たれ、国と家族の間で真っ二つに引き裂かれる義人の物語には、結構感情移入してしまった。「男らしさ」という理想。義人に限らず、ここに出てくる殆どの男たちはそれに捕らえられている。そして、自分自身の言葉によってその鎖をさらに頑丈にしているみたい・・・。馬鹿みたい、というよりは、痛々しい。そんな理想を生きられる者がどれだけいるというのだろう?主人公氷見子の視線は、持ち前の聡明さと、優しさ(後半まで、この少女の優しさには気付かなかった)で、男たちの脆さ、女たちのたくましさを射抜いている。





蛇足。この武田泰淳という人は、皮膚感覚に訴える比喩をつかう人だなあ。ぎょっとするほど生々しくて怖いけど、ああ、なるほど、と思うような比喩が多かった。




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